Hands-on! ミュンヘン工科大と東大の学生交流
A report of the intercultural exchange program "Hands-on", coordinated by BLANCO, between the Technical University of Munich and the Tokyo University.
3月半ばに突然、通常のコミュニケーションが遮断されてから、早3ヶ月がたちました。ここドイツでは、学校も徐々に再開し、マスクの着用が義務付けられてはいるものの、レストランへ食事に行くこともできるようになり、少しずつ、日常生活が戻りつつあります。しかし、対人間の距離は常に保たねばならず、街で友人と会っても、気軽に握手したり、体に触れ合ったりすることはできません。
BLANCOメンバーである私、宮山麻里枝が日本語を教えているミュンヘン工科大学では、4月半ばからオンラインによる夏学期が始まりました。毎週決まった時間に、コーヒーカップを片手にそれぞれの部屋に座っている学生と、コンピューターのモニターを通して対面し、日本語の授業をします。外国人留学生のためのドイツ語の授業には、コロナのために留学を延期せざるを得なかった学生も参加しているとのこと。まだドイツに来ていない中国人学生が、中国からドイツの大学の語学授業に参加しているのです。
自分の部屋にいながら、世界中の人々と交流できる時代が、すぐそこまで来ているのかもしれません。しかし、実際にその地に足を運んで、直接、顔を突き合わせてみないと分からないことがあるのも事実で、外国旅行の思い出は、食べ物の味や匂いなど、体感として残っていたりします。それらは、コンピューターの画面からは伝わりません。
ミュンヘン工科大学から、毎年40人以上の学生が、日本各地のパートナー校へ半年から1年、交換留学しています。日本は、漫画やアニメなどのサブカルチャーや、寿司、ラーメンなどの食文化を通じてドイツの若者の間でとても人気が高く、日本語クラスも大盛況です。一方、日本のパートナー校からミュンヘンへ交換留学に来る学生数は、それほど多くありません。日本からの学生を少しでも増やすために、昨年の夏、パートナー校の東京大学と提携して、短期研修プログラムを実施しました。8人の東大生が1週間ミュンヘンに滞在して、当地の日本語教室をアシストしたり、ドイツ人学生とワークショップで討論したり、色々な経験を積んだのです。
ワークショップでは、日独の教育制度というテーマで、それぞれプレゼンした後、小グループに分かれてディスカッションしました。日本とドイツは、敗戦後の経済成長など、似ている面も多いのですが、教育制度は全く違います。例えば、ドイツの大学には入学試験がありません。アビトゥアという高校卒業資格があれば、どこの大学にも入れ、これを得るために、高等学校の最終学年は勉強漬けになります。 また、ドイツの場合、大学に進学するか実用的な道に進むかは、小学4年が岐路となります。その時点の成績で、進む学校が変わってくるからです。学校制度の違いは、日独双方の学生にとって興味深いテーマだったようで、このテーマをもっと掘り下げたいという声も聞かれました。
彼らにとって最も楽しかったのは、週末の自由行動のようです。日本からの学生を2人ずつ4つのグループに分け、日本へ留学予定のドイツ人学生と一緒に、4〜5人のグループを作って、それぞれの興味に合わせて、グループごとに週末の計画を立てました。山や湖に遠出したり、美術館巡りをしたり、日本語と英語でおしゃべりしながら街中を歩き回ったり、思い思いに楽しい時間を過ごしたようです。土曜から日曜にかけて、ドイツ人学生の住んでいる学生寮や、家族が住む実家にホームステイをして、日常生活の一面を垣間見ることもできました。
学生達と密度の濃い時間を共有しながら、私は、自分が学生だった頃を思い出しました。海外経験がなく、未知の場所へじりじりするような憧れを抱いていた私は、大学4年の夏、初めてヨーロッパを一人旅しました。ドイツのとある町の路上で、重いリュックを背負おうとしたら、妙に軽く、振り向くと、後ろで見知らぬ人が、リュックを支えてくれていました。通りすがりの人のそんな親切心が、その後、ドイツへの留学を決意した私の背中を押してくれたのかもしれません。
プログラムの一環として企画したキャリアセミナーでは、そんな私の個人的な体験をお話ししました。ドイツの映画大学で試行錯誤しながら作品を作った日々。2つの文化の間で考えたこと。その集大成としての卒業制作「赤い点」を、既に日本で見てくれた学生さん達と、映画と人生の不思議な関係について話すこともできました。それらの話を通して私が伝えたかったのは、人生は、予定通りに進まなくてもいいということです。大切なのは、とにかく一歩、踏み出すこと。そうすれば、色々と思いがけないことが待ち受けています。そして、目の前の現実に誠実に向き合うことで、道は自ずとひらけてきます。
プログラムに参加したドイツ人学生は、その後、日本へ飛び立ち、今度は東大の学生がホストになって、東京を案内したとのこと。ミュンヘンのビアガーデンで1リットルジョッキで乾杯した彼らは、東京の居酒屋で、小さいグラスにビールを注ぎ合いながら、楽しいひと時を過ごしたことでしょう。コロナ後の時代も、新たな世界に足を踏み出すきっかけを、学生達に提供できればいいなと思っています。
関連リンク: -東京大学 体験活動プログラムHands-on Activities
参考:映画 "Der Rote Punkt /赤い点"
監督・編集:宮山麻里枝 82分 2008年
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